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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

ケラみたいなもんだとでも思っていたのだろうか。

その小料理屋では照子という名だと波子は手紙に書いてきた。偶然とはいえ、それはクララの本名と同じなのも、俺をそわそわさせていた。封筒の裏に出ている小料理屋の場所は、東京生れの俺もついぞ行ったことのない、俺などには関係のない日本橋で、女中に密淫売をさせる店がそんな場所にあろうとは思えぬが、しかも不安なのは、それほど波子を俺が実は、自分でそうと自覚しないにもかかわらず、大切なものと見、大切にしたいと考えていた証拠かもしれぬ。

その店は問屋街の片隅にあった。問屋の使用人相手の菓子屋、氷屋、洋食屋といった店が一画をなしていて、この小料理屋は番頭などが仕事をおえたあと、一杯やる店といった感じである。だから、小料理屋と言うより、一杯飲み屋の構えだが、小鉢物ぐらいは出すらしい粋な構えで、あいにく今は西陽がカンカンさしている二階には、お客の招ける座敷もあるようだった。あやしげな商売はしていないと、ひとまず俺は安堵した。

涼しく水を打った店さきに、早くも盛り花(塩)がしてあって、あけ放った入口に、短い紺のれんが出してある。