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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

まるで俺のせいみたいに言って、

「もうすぐ秋だというのに、どうだ、このハエは。五月蝿と書いて、うるさいと読ませるが、これでは九月蝿と書き直したほうがよさそうだ」

そんなことをつぶやいてから、

「砂馬君は無理にすすめんほうがいいな」

「はあ」

「砂馬君には何も言わんほうがいいね」

口の軽い俺をたしなめるように言って、またハエをたたいた。

あと一月たらずで、世の中がひっくりかえる騒ぎがおきるというのに、張本人のひとりの慷堂はその大事にまるで関係を持ってない人間みたいに、そしてこれだけが仕事であるかのように、ハエたたきでせっせと、だがのんびりとハエをたたいている。俺はちょっと勝手がちがうようなとまどいさえ覚えさせられた。

もうすぐ、どえらい事件がおきるのだと俺のほうはわくわくしていた。昂奮していた。それをたあいなく顔や言葉にも出していた。もちろん俺だって、誰の前でもそうだというわけではなく、他ならぬ慷堂の前だったからだが、そうした俺を見てまるで興ざめでもしたような、しらじらしい顔をした慷堂は、今度の計画にあんまり期待を持ってない、むしろ期待を失ってにがい幻滅を味わってでもいるかのようにさえ見えた。