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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「俺の娘をどこへやった」

と、照子の父親の猪沢市太郎にどなりこまれた。いやにりゅうとした三つ揃いを着こんだ、一見シロシ(紳士)風の、そのくせ言葉使いは下品な男だった。正直に言わないとただじゃおかないぞとすごむのである。

「そんなに大事な娘なら、なぜガセビリなんぞにしたんだい」

娘をガセビリにしといて、そんなに大きな口がきけるのかと、俺も負けてはいなかった。

「ガセビリ……?」

「淫売だい」

「知ってら、そんなことは」

「知ってて、娘をガセビリにするとは、ひどいオヤジがあったもんだ」

「そいつは俺も知らなかったんだ」

「俺が娘さんに会ったときは、もうガセビリになってたんだ。可哀そうに……」

「俺はちっとも知らなかった。だから俺は満州から出てきて娘を探してるんだ。娘をどこへやった?」

「知らねえよ。もう手遅れだよ」

言いながら俺は、この父親の出現のせいか照子が、俺の心からすーっと遠のいて行くのが感じられた。

「誰かにもう、どこかへ売られちまったよ」

「売ったのはお前さんじゃないのか」

「冗談言うない。いくらコゲ(零落)たって、スケコマシ(女を売り飛ばす)をするような俺じゃねえ」