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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

内部的な派閥の争いだから、軍部も世間に対して事件を秘密にしている。世間に洩れると、軍の威信にかかわるからだ。処罰らしい処罰が行われないのもそのためだと言う。

「どうだ、猪沢君の意見は? 軟弱外交の賛成者としては、どうかね」

「それは昔のことですよ」

と砂馬が取りなすように、

「今の猪沢さんは対支強硬論者だ」

黙って口をつぐんでいる猪沢に、客は追い討ちをかけるみたいに、

「商売上からそうなったのか」

「矢萩さんにかかると、ボロクソだね」

と猪沢は笑った。

矢萩……? と俺は眉をあげた。四谷の待合で右翼の奴から聞いた名だ。俺をこの矢萩の一味であるかのように見て、一味である以上、人殺しの経験があるはずだと言った。俺は改めて矢萩に眼をそそいだ。よく見ると、それはひどく陰惨な顔だった。剛愎そうな口はきいているものの、内心には暗いおもいが根を張っていて、それが表面ににじみ出ているようだ。虚勢を張っているとも見られ、ボロクソにやられて笑っている猪沢のほうが一枚うわ手のようだった。

「おい、加柴」

俺の眼をそらせるように、そして話題を他にそらすように、砂馬が言った。

「ひとつセンバ(温泉場)へでも行って休養してくるんだな。