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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その時間の経過が俺に、あの二度目の火花は外の何か強い光が車のなかにさしこんで、バック・ミラーにきらりと反射したのだと気づかせた。つまらん現象をこっちが異常に取ったのにすぎない。そんな自分を俺がさげすんでいると、

「あたしも若いころは綺麗だったんだけど」

オカマが、ふと――奴もまた自分をさげすむように言った。ひげの剃りあとが、焼酎屋では青々としていたのが急に、まるでひげが急に生えたみたいに黒っぽく見えた。

「それで、商売替えしたのかい」

何気なく俺が言うと、

「あんた、あたしのことを知ってるの?」

すかさず俺は、

「さあ、なんて言ったらいいかねえ」

「いいのよ」

オカマは身を離して、

「今だって可愛がってくれる人があるんだから……」

「俺の知ってる奴か」

「実のある人……ずっと、あたしを愛してくれてるわ」

「アビルのことか」

「アビル……?」

車は隅田川に近い川岸と覚しいところに出て、

「ストップ」

とオカマが言った。立ち並ぶ倉庫の、灰色の壁面を、裸の電球がさむざむと照らし出していて、ひと気がない。

車を降りた俺たちは倉庫の間から岸に出た。暗い運河に舟がいっぱい、風を避けてお互いに身をすりよせるようにして舫っていた。