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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
かなり大きなダルマ舟もある。
岸と舟をつなぐワタリの板を、オカマが先に立って渡って行った。踊りでも踊っているような恰好で、腰をいやらしく振って、しかし、板がしなって足もとがあぶなっかしいのを、器用に舟へ渡って、その舟からまたほかの舟へと渡って行く。トモに近い船室からランプの灯の洩れているのもあった。
「どこへ行くんだ」
初めて俺は言った。たしかにこれは異常だからだ。
「屠殺場……」
とオカマはふざけた声だった。
「そうかい。おめえの部屋か」
俺の声は強がりとも聞かれたのか、
「殺し場……」
内股の歩き方だが、その足の運びはすばやく、
「誰かの殺され場……」
フフフと笑って、オカマの奴はイナバの白兎がワニザメの並んだ背を飛び越えて行くみたいに舟から舟へと移って、小さな釣り舟に乗ると、
「ちょいと。頼むわよ」
女性的ながら何かすごみのきいた声だった。舟のなかから黒い塊がむっくりと起きあがった。塊と見えたのは人間で、頭からかぶった毛布をはねのけると、黙って眼だけ光らせて(それは、いつかの猫を思わせた)櫓をわしづかみにして軽々と持ちあげた。
突然どこからか、赤ん坊の泣き声が聞えてきた。