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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

矢萩の話だと、照子は阿寒湖の遊興街のガセビリになっていると言う。俺と同じ北海道にいようとは露知らなかった。妙な因縁すら感じられるが、それにしても東京生れのあの照子がこんな遠い土地に流れてきていようとは……。

これも「文士」の仕業だろうか。知らねえなと言った矢萩は、どこから照子の所在を聞き出したかも言わなかった。照子の父の猪沢から聞いたわけではない証拠に、猪沢を出し抜いてやったと矢萩は快さそうに笑った。砂馬の家へ猪沢と一緒に俺が行ったとき、初めてこの矢萩と会ったのだが、猪沢の娘の照子に俺が夢中だったことを、そのとき矢萩は聞き込んだのである。

照子をうけ出して、中国へ連れて行くのだと矢萩は言った。そして俺に、

「一緒にどうだ」

と言ったのである。照子を上海へ連れて行って、矢萩はどうするつもりなのか。

「ことわるね」

と俺はうそぶいた。こう、ぴしゃりとことわっては、矢萩のことだから俺にどんな復讐を企てないともかぎらない。そうも思ったが、あの人殺しのときに(あれはワナだったのか、俺の度胸試しだったのか)そばでニヤニヤしていた男が、矢萩の子分として俺の目の前に現われたのは好都合だった。