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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
その工場をおっぽり出されてからは町工場を転々として、一時は砂馬の子分格のリャク屋をやっていたが、やがて露店商になった。丸万の奴、ヤヤコー(露店商)になりさがったかと見る向きもあったけど、彼自身は意気軒昂としていて、そのうちこの丸万留吉が露店仲間に同志を作って、メーデーのときには新しい組合旗をかかげて見せると言っていた。赤旗に押されて、数すくなくなった黒旗を新しくぶっ立てて、
卑怯者去らば去れ
われらはクロハタ守る
とヤヤコーの同志に怒鳴らせて見せると意気込んでいた。赤旗の奴らのメーデーの歌をもじったこの歌の「卑怯者」とは、俺たちに言わせると、ボル派の連中のことだった。丸万は砂馬の子分になったとはいえ、アナーキストの気概を失ってはいなかった。
俺はその丸万のところへクララのことで相談に行ったのだが、丸万のほうからさきに、
「おめえにひとつ、相談したいことがあるんだ」
と言われた。丸万は露店関係のテキヤの大親分の家で、面白い人物に会ったという。
「慷堂先生というんだがね。砂馬さんの名前の慷と同じ字を書くんだ。それに堂」
「面白い姓だな」
「名前でなくって号なんだ。なんだか、これは偉い先生らしい」