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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「加柴さんに、いえ、野中さんに早くここを出て行って貰いたいからでしょう。主人としたら無理はないわ」

「それにしても、僕にはちっとも、むごい親方ではなかった」

「清さんへの義理がありますもの」

綾子はそして開き直って、

「あたしをここへ置いていくつもりなんですね」

置いてくだなんてと、これは波子が言った。綾子はこれも無視して、

「よござんすよ。あとになって、あたしが一緒だったほうがよかったと後悔しても知りませんよ」

上海の清一郎に俺をもうかまいつけるなとでも手紙で言うつもりだろうか。いやな疲労に俺はのめりこんで行った。綾子の無理難題のせいというより、波子との交わりのあと俺はいつもこうだった。ひどく身体が弱っている。平凡な、緊張のない生活が、かえって俺の肉体を蝕んだかのようだ。身体を張って生きて来た俺には、だらけた生活がきっと毒なのだ。それなら、これから、もとの俺に戻るのだから、健康も取り戻せるだろう。

綾子が去ったあと、

「百成さんとこの坊ちゃんは……」

波子が事もなげに言ってのけた。

「ほんとは、百成さんの兄さんの子なんですって」

「清さんの子?」

志奈子は終始スヤスヤと眠っていた。