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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

蹶起に参加しているのにちがいない。

波子に黙って俺はアパートを出た。寝たり起きたりの日常を送っていた俺は、たまにアパートの近くに散歩に出ることもあったが、遠くに行くのはこれが初めてだった。ながい病床生活ですっかり足が萎えてしまった俺は、降り積った雪を踏む足が、まるで雲の中を歩くような頼りなさだった。俺は足で歩くのではなく、いわば気力で歩いていた。

まず警視庁へ行ってみた。それをぐるりと取り巻いて警備についている蹶起部隊の兵隊に俺は近づいて、ご苦労と声をかけて、北槻大尉の居所を聞いてみたが、彼らも知らないのだった。何も知らないで、ただ上官の命令に従って、蹶起にそうして参加しているだけだった。

肩で息をしながら、雪のなかをほっつき歩いて、俺はようやく、大尉の連隊は首相官邸に行っているはずだと知らされた。宮城のほうから官邸へ行く道があるのだが、それは蹶起部隊が固めていて通れない。そこで俺は遠回りだが赤坂のほうに回った。鎮圧部隊がまだ出動してないころで、弥次馬がいっぱい詰めかけていた。巡査の姿は見かけないにもかかわらず、巡査にまるで遮られているかのように、人々はおのずと一線を画していた。