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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
官邸への坂道にまでは、はいりこまないで、下の電車通りの、電車が不通になっているその車道に並んでいる。
俺はその線からひとり飛び出して、真向うから雪が顔に吹きつけてくる坂道を昇って行った。
「とまれ!」
銃を構えた歩哨が坂の上からどなった。かまわず俺が歩みをつづけると、
「とまらんと打つぞ! 誰か!」
「加柴四郎……」
名を言えば誰だって知らない者はない、そういったひとかどの人物であるかのような名乗りをあげたはいいが、坂道で息を切らしている俺の声は、威張った名乗りに似合わぬ弱々しさだった。改めて俺は精一杯の大声をあげた。
「北槻大尉に会いたい!」
隊長の名を出したのは、ききめがあった。歩哨のそばまで、ともかく行くことができた俺は、
「加柴四郎が会いに来たと北槻大尉に伝えてくれ」
と高圧的に言った。歩哨は気合いに押されて、
「通行証をお持ちではないのですか」
と言葉を柔らげて言った。白っちゃけた顔に不精ひげを生やし、おまけに粗末な身なりの俺だったが、かえってそれが右翼の国士のように歩哨の眼に映じたのだろう。
郵便切手を上着の裏にでも貼っておけば、それが通行証がわりになる、そういう秘密の取りきめがあったのだ。