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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
こうならなかったことがくやしかった。民衆の革命的エネルギーの爆発を見られなかったことは残念だ。
俺にとって、眼前の破壊はようやくこのとき、意味を持ってきた。
二・二六の蹶起は民衆の革命的エネルギーを暴動へと導くことをしなかった。事を上層で解決しようとした。その傲慢さが失敗の一因だった。
民衆のエネルギーは欝積したままだ。その欲求不満の爆発が、対岸のあの破壊ではないかと俺は思った。兵隊として戦場へ駆り出された日本の民衆の抑圧されたエネルギー、ねじまげられた欲求不満が、中国で爆発している。――
「あの八月に、上海が支那軍に包囲されたときに、日本の陸戦隊は全部で二千数百名しかいなかったんですよ」
風に乗ってそんな声が俺の耳に聞えてきた。
「陸軍部隊が上陸するまでは、たったそんな僅かな兵力だったんですがね。よくまあ頑張ったもんだ。多勢に無勢と言うけど、支那軍のほうは、はじめ四万ほどだったが、しまいには、二十万……」
「長崎県上海も一時は完了(しまい)かと思った」
俺の周囲では、こうした会話がかわされていた。
「虹口にわたしたち在留邦人が籠城したときは、ほんとにもう、これで一巻の終りと思ったものだ」