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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

のっそりと起き上った丸万に、

「五館の天下だなんて呑気そうなことを言ってたが、相当なもんじゃねえか」

「四郎さんこそ、相当なもんだ。この騒ぎだというのに、泰然自若……」

「いいや、茫然自失だ」

と言って、俺はポケットのお手玉を握りしめている自分に気づいた。かんじんのピストルに手をやっていない。

「なっちゃねえな」

と俺は自分につぶやいた。自分に言っていたのだが、ロクが運転台から、蛇が鎌首をもたげた恰好で顔だけ振りかえらせて、

「なっちゃねえ?」

自分の醜態を笑われたかのように俺を睨んだ。

「お前さんのことじゃねえ」

と俺は言ったが、ロクは俺の眼に醜態なあわて振りをさらけ出したそのこと自体で、すでに俺に対してふくんでいた。恥しさを俺への怒りに変えていたのだ。この野郎、覚えてやがれといった怨みをこめた眼つきである。

「俺のことか。モサナシ(度胸がない)とは俺のことか」

と丸万が、これは怒った語調でなく、またその反対のしょげた語調でもなく、普通に言った。

「いや……」

俺の泰然自若は、俺がこういう場面に慣れていなかったせいにすぎない。ロクや丸万があわてたのは、公然の殺人をよく知っていたからだ。