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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「あたしは百成さんの悪口を、これっぽっちも言ったことはない」
ロクは人差指のさきに、親指の爪をかけて、ぴんと弾くようにして、
「ねえ」
と俺に同意をもとめた。俺は聞き流して、
「日本人はそうやって、みんなシナさんを食い物にしているのか」
支那革命に挺身した悲堂や慷堂のことを俺は思い出した。現在の日本人と、なんたるちがいだ。
「シナさんだけじゃなく、日本の兵隊も食い物にしている。前線から上海に来た兵隊からも、寄ってたかって金をだまし取ってる。わずかな兵隊の給料を――生命を賭けたその法幣を、ごっそりまきあげてる」
露悪的な口調で百成は言って、
「あたしは、かならずしもそれを非難してるんじゃない。人間てのは、そういうもんだな」
「あんたもそういう人間のひとりか」
その俺に百成は、では伺いますがといった口調で、
「加柴さんは、なんで上海に来たんです」
ロクは俺がなんと返事するかと、俺の顔を穴のあくほどみつめていた。
「俺も金儲けの口を教えて貰おうか」
と俺はしらばくれて、
「二・二六でみんな――この世からいなくなってしまった」
百成は無言の顔の眼だけキラリと光らせたのち、
「小川秋明は生き残ったな。