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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

蓋をあけるとそのままお盆代りになる、日本旅館などによくある手のもので、なかに小さな急須、小さな茶碗に茶卓、小さな茶筒と、すべて小型の、玉露用の茶器がはいっていた。

「あんたは一体、なんで上海に来たんです」

と俺は、俺に問われた言葉を百成に言った。百成は貴重品でも扱うような手つきで、茶筒から玉露を出して、急須に入れて、

「日本がいやになって、日本から抜け出すつもりで上海へ来たんですがね。日本だけじゃなく、自分から抜け出そうと思ったのかな。日本人の自分から逃げ出そうと……そうそう、これは加柴さんにも言ったな」

「北海道へ行く直前……あのときはお世話になった……」

俺の言葉を遮るみたいに、

「ところが日本がここまでやってきた。せっかく逃げてきたここへ、日本が追いかけてきた」

百成は熱い湯を茶碗に入れてさましていた。

「日本軍が? それとも綾子さんが?」

皮肉を俺は意識して言ったあと、だから神妙に、いや、いんぎんに、

「綾子さんには、根室でお世話になりました」

俺はまた礼を言った。百成は無言のまま、さました湯を頃合いと見て、急須にそそいだ。そしてその急須を両手で包みこむようにしてしばらくじっとしていたのち、鳥の摺り餌入れみたいに小さな茶碗の上に傾け、