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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
現実のなかに現実を感じなかった。
今だってそうなのだ。今の現実は昔のようなすさまじいそれではないが――いや、もうすこしすると、俺も異常な運命に見舞われる。自分で自分に見舞わせるが、今の俺の場合も過去のなかにだけ現実がある。死んだ過去に、俺の現実が生きている。と言うことは、生きた現実が思い出のなかにだけあって、今の現実は俺にとって、生きた現実ではないのである。――
照子が部屋に飛びこんできたときは、矢萩はまだ、床にぶっ倒れた身体をヒクヒクさせていた。丸万のくれた小型のピストルを使った俺は、タマをもろにぶちこんでいたのだが、矢萩の奴は死にきれず、未練たらしくうごめいていた。
そんな矢萩を見て照子は――普通の女だったら、キャーッとか、アレーッとか叫ぶところだが、前もってこれが知らされてあったかのような、まるで共犯者みたいな落ちつきようだった。部屋にはいるとすぐ、扉の錠をおろし、手にした矢萩のチョッキをノッブにかけた。そうして鍵穴から誰かにのぞかれることを防いだのだ。
矢萩は肩のあたりをヒクヒクと痙攣させたと思うと、つづいて指さきをヒクヒクさせた。
(早く、オメデタクなりやがれ!)