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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

店には窓際に中国人の客がひとりいるきりだった。寒いのに雪花膏をたべている。

「あんたの友人とは、重野というんじゃないかな」

「いいや」

「だいぶ、つかまったようだな」

「野中さんの――加柴さんの友だちもつかまった?」

「それで、あんたに力になって貰おうと思って来たんだ。加柴でなく野中と呼んで貰おう」

「僕には、何もできないな」

と風巻は逃げて、

「明日、早朝に前線に出るんだが、野中さんも一緒に行かないか」

「一緒に?」

前線には資格がないと行かれない。だが俺を現地採用の連絡員ということにすれば、一緒に行かれると風巻は言った。

「力になれと野中さんは言ったが、せめてそんな程度なら……」

他ならぬ野中さんのことだからとも言って、

「警察へいま行ったんだが、矢萩大蔵が殺されたってんで、色めき立っていた。容疑者を片っぱしからあげようと言ってた」

容疑者のなかに俺の名も出ていたのではないか。そう思わせる風巻の口ぶりだった。俺はしかしそれを風巻に問うことはしなかった。

ここでむざむざカイツマる(つかまる)のは業腹だ。俺は、とっさにこうも考えた。前線へ出て、ほとぼりがさめてから砂馬をやるか。