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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「おい、おい」
と風巻が追った。ニワトリは嘴をこっちに向けた、妙な恰好だった。あとを追う風巻のほうに顔を向けながら、完全にもとに戻らないまま、あどけない眼を俺たちにそそいで、とことこと逃げて行く。風巻はぞっとした表情で立ちすくんだ。
それから何日かして、対岸に行っていた討伐隊が、捕虜を二人連れて戻ってきた。「捕虜」と兵隊は呼んでいたが、軍服は着てなくて、見たところ無辜の農民のようだった。
だが、兵隊の話だと、彼らは自分で農民だと言っているけど、農民らしい荒れた手をしていない。それにそのひとりは、姓名を呼ばれて「有」と答えたと言う。うっかり口から出たのだろうが、それは点呼(中国語では点名)のときの返事だから、たしかに中国兵にちがいない。二人とも便衣隊にちがいないと言う。
夜を徹しての取り調べが行われた。拷問に堪えかねての悲鳴、自白を強いる兵隊の怒号が、夜っぴて聞えてきた。
風巻あての、上海支局からの手紙が届けられたのは、ちょうどその翌日のことだった。後方からの連絡で、それがここまで運ばれてきたのだ。
「野中君のもある」
と風巻が言った。俺は上海を去るとき、波子に手紙を出し、内地からのたよりは風巻の社の支局あてに送るようにと書いておいた。