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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

。その工場をのぞくと、その日はちょうどフキの日に当っていた。

なつかしい「湯」の臭いが、ツーンと鼻に来た。ズクを熔かした奴を「湯」と言うのだ。この「湯」の臭いのなかで俺は育ってきたようなものなのだから、そいつは俺に、ああこれは俺の家の臭いだ、俺は家に帰ってきたと感傷的な気持にさせる。そしてそいつは、癪なことには、おふくろよりも先に、おやじのことを俺に思わせる。

俺のおやじは俺の子供のときから、この鋳物屋をやっていて、せっせと文字通り汗みどろで働いているのだが、一向にうだつがあがらない。工場は俺の子供のときと、ちっとも変らないきたなさだ。おやじはノム、ウツ、カウの三拍子揃った道楽者だからということもあるけど、鋳物屋みたいな商売をやっていれば、それも当り前だと言えなくはない。俺としたことが、畜生、これではおふくろにすまないじゃないか。

上体は素っ裸のおやじが、ハタラキ(雑工)をどなりつけながら、仕事をしていた。俺の子供のときから見なれた姿であり、俺の子供のときとちっとも変らない姿である。機械工場やなんかとちがって、鋳物師のおやじは自分が先頭に立って働いている。