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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
二
「なんだって」
「筋のとおった腕だ、旅芸人には惜しいよ」
「そうじゃない」修理が云った、「おれが云うのは、深江さんに似ているだろうというんだ」
和次郎は振返って修理を見た。痛む傷にでも触られたような、どきっとした表情であったが、修理は気がつかないようであった。和次郎はすぐに舞台へ眼を戻した、そうして、眉をひそめながら首を振った。
「いや、そうは思わないね」と和次郎は云った、「姉はもっと細かった、もっと沈んだ、憂い顔をしていたよ」
そして彼は、さらに強く眉をひそめた。
二
若尾が舞台からさがって来ると、葛籠番の久助爺さんが手招きをした。若尾は鉢巻と襷をとり、額の汗を拭きながら、刀架へ薙刀を架けてそっちへいった。
「若ぼうにお客さんだよ」と久助が楽屋のほうへ顎を振った、「ここの御家中のお武家らしい、さっきから親方と話してるが、どうやらおめえに好い運が向いて来たらしいよ」
「また、いやらしい話でしょ」若尾は鼻の頭へ皺をよせた、「この頃っていえば、どこの町へいってもいやらしい話ばかりよ、さすがの美若太夫も、うんざりだわ」
「好い運が向いて来たらしいよ」と久助は云った、「おらあ、ちょっと小耳にはさんだばかりだが、なんでも若ぼうを養女に貰いてえような口ぶりだった」