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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

割引券を焼く

それゆえ山葡萄のような自然生のものは、自家用の原料としては適当ですが、商品としてはほとんど価値を認められません』

私はなるほどと思い、その教えを深く感謝した。この山葡萄に着目したのは私ばかりでなく、福島県岩手県等でこれから葡萄液を製造することを思いつき、苦心研究中の人があった。私はそれらの人々にもこの豊田翁の言を伝え、その失敗を未然に免れしめることが出来た。

割引券を焼く

明治三十九年十二月は、我ら夫婦が中村屋を譲り受けてから満五年に相当した。『五年経った』この感懐は私の胸に深かった。書生上がりの素人が失敗もせずにどうやらここまでやって来たのだ、また店は日に日にいささかずつでも進展しつつある。これ偏にお得意の御愛顧の賜物であると思うと、私は何かしてこの機会に謝恩の微意を表したくなった。そして思いついたのが開業満五周年記念として、一割引の特待券を進呈することであった。割引券も上品に美術的にと意匠して、正倉院の御物中にあるという馬を写して相馬の意味を通わせ、当時有名な凸版印刷会社に調製を頼んだ。

その割引券一万枚が出来上がって間もなくのことであった。「松屋のバーゲンデー、売り切れぬ間に」