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ごじゅうのとう

五重塔

幸田 露伴

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页

青空文庫

生き甲斐もあらるるというもの、それに引き代えこの十兵衛は、鑿手斧もっては源太様にだとて誰にだとて、打つ墨縄の曲ることはあれ万が一にも後れを取るようなことは必ず必ずないと思えど、年が年中長屋の羽目板の繕いやら馬小屋箱溝の数仕事、天道様が知恵というものを我には賜さらないゆえ仕方がないと諦めて諦めても、拙い奴らが宮を作り堂を受け負い、見るものの眼から見れば建てさせた人が気の毒なほどのものを築造えたを見るたびごとに、内々自分の不運を泣きますわ、お上人様、時々は口惜しくて技倆もない癖に知恵ばかり達者な奴が憎くもなりまするわ、お上人様、源太様は羨ましい、知恵も達者なれば手腕も達者、ああ羨ましい仕事をなさるか、我はよ、源太様はよ、情ないこの我はよと、羨ましいがつい高じて女房にも口きかず泣きながら寝ましたその夜のこと、五重塔を汝作れ今すぐつくれと怖ろしい人にいいつけられ、狼狽えて飛び起きさまに道具箱へ手を突っ込んだは半分夢で半分現、眼が全く覚めて見ますれば指の先を鐔鑿につっかけて怪我をしながら道具箱につかまって、いつの間にか夜具の中から出ていたつまらなさ、行燈の前につくねんと坐ってああ情ない、つまらないと思いました