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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「まあ、お前どうなすったの? 気味がわるいじゃないか」
母が叱ると、蘭子は「シッ」と唇に指を当てて、ソッと元の座に戻ってきて、おびえきった調子で言うのだ。
「聞こえるのよ。荒い息遣いが聞こえているのよ。きっとあいつは、あの天井板の上に潜んでいるんだわ。あたし、どうしましょう。ここの家にいるのは怖いわ。どっかへ行きましょうよ。あいつが、どうしても追っ駈けてこられないような、遠くの遠くの方へ逃げましょうよ」
「何をいってるんだ。それは君の気のせいだよ。天井裏から息遣いなんかが聞こえてたまるものか。なんにもいやしないよ。いるはずがないんだよ」
神谷は蘭子の臆病を叱ったが、考えてみると、彼女をこのままこの家に置くのは、いかにも危険な話であった。彼は寸刻も蘭子のそばを離れず守護するつもりであったし、また警官の護衛を依頼するのもできないことではなかった。しかし、相手は人間ではない。変幻自在の怪獣なのだ。大都劇場で、何千という群集を向こうにまわして戦ったやつだ。どんな護衛も彼の前には無力にひとしい。
「一ばんいいのは、君が完全に行方をくらましてしまうことだ。あいつの手の届かないところへ逃げてしまうことだ。