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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
あけてくれるのかと思うと、そうではない。扉の上部に、小さな覗き穴が切ってあって、その蓋があいたのだ。三寸四方ほどの穴から、一つの眼が現われて、ジロジロとこちらを見ている。
「あの、わたし、吉崎はなというものですが、熊井さんから、この手紙を持って行けといわれましたので」
蘭子がせいぜい、田舎風なアクセントで実直らしくいうと、今度は覗き穴から、ニューッと老人らしい手が出て、その手紙を掴みとって行ったが、しばらくすると、中から案外やさしい声が聞こえてきた。
「よくわかりましたよ。お前、奉公しなさるのか。吉崎さんだね。よろしい、よろしい、さあこちらへおはいりなさい」
そして、引戸がガラガラとあいて、その向こう側に白髪白髯の老人が、ニコニコ笑いながら立っていた。話に聞いた高梨家の執事なのであろう。
老人のあとから、玉砂利を敷きつめた門内の道を歩いて、玄関にはいると、薄暗い廊下を幾曲がりして、奥まった洋室へ案内された。広い家の中は、老人のほかには誰もいないのかと思われるほど、ヒッソリと静まり返っていた。
「手紙で大体のことはわかったが、うちはお百姓なんだね。そして、お前さんは女学校を三年までやって中途退学した、というのだね。