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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

だが、八卦見ではあるまいし、見ず知らずの人間が、きょう引越しすることを、いったいまあ、どうして言い当てることができたのであろう。

「国へ帰ったと言うのですか」

「ええ、そうです。しかし、先生はどうしてそれがおわかりになったのでしょう」

「詳しいことはあとでお話しします。僕はあなたのお話を伺って、あることを心配していたのです。それがいま一部だけ的中しました。この上は現場をしらべてみるほかありません。さあ、ご一緒に参りましょう。お話は自動車の中でもできますから」

明智は何かひどくイライラしている様子で、物問いたげな神谷の表情に答えようともせず、小林少年を呼んで、自動車を呼ぶように命じた。

「実はさっき、お話し中に手洗いへ立ちましたね。あの時玄関の所を通りかかってこんなものを見つけたのですよ、むろんあなたがいらしってからあとで、誰かが投げ込んで行ったものに違いありません」

明智はそう言って、手帳の切れ端らしい一枚の紙を見せた。それには鉛筆の走り書きで、左のような恐ろしい文句がしたためてあった。

明智君、君は神谷芳雄が依頼する事件に、断じて手を染めてはならぬ。君はいま美しい妻君と新家庭を楽しんでいる身の上ではないか。