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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「ああ、あなたはもしや、その覆面のお嬢さんが……」
「ええ、恩田の変装でなければいいがと思うのです」
「畜生め! そうだ。そうにきまっている。ああ、僕はなんという間抜けだったろう。苦心に苦心をして、蘭子ちゃんを、あのけだものの罠の中へ落としこむなんて……」
神谷はもうまっ青になって、自動車の床に、地だんだを踏むのであった。
「おい、運転手君、料金はいくらでも増してやるから、もっと急いでくれないか。人の命にかかわることなんだ。早く、もっと早く」
彼は気違いのようにわめき立てた。
「しかし、いくら急いでみても、僕らはもう後手を引いているのかもしれませんよ」
明智は深い憂慮の色を浮かべて言う。
「どうしてですか。蘭子が高梨家へ行ってから、まだ二時間あまりしかたっていないのですよ……」
「いや、普通なれば心配することはないのですが、あなたを尾行したやつがありますからね。そいつは僕を恐れているのです。恐れているからこそ、あんな脅迫状を残して行ったのです。何を恐れるのか。僕の想像力をです。僕が高梨家というものを疑うかもしれない。それが怖いのです。すると、そいつは、僕らの先廻りして、高梨家に帰り、いつ襲撃されてもさしつかえないように用意をするかもしれません」