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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「芝浦っていや、ずいぶん遠いじゃないか。歩いて来たのかい」

「そうよ。モチよ。だがおれの足は電車よか早いんだからな」

「だが、おれはそうはいかんよ。どうだ円タクを奮発しようか」

「おれあ円タクなんぞ嫌いだ。だが、お前が困るなら乗ってやってもいいよ」

それにしても、恩田老人はなんというひどい使いをよこしたものであろう。これで見ると、今あいつらのそばには、気の利いた手下もいないとみえるわい。

明智はソフト帽を眼深くして顔を隠しながら、円タクを拾った。そして、乞食と並んで車内に腰をおろした。車は乞食の言葉に従って、芝浦の方角に疾走する。

「お前に手紙を頼んだ人は、確かにおれのおやじだろうね。お前その人の風体を言ってみな」

明智は念のためにそれを確かめようとした。

「なんだか知らねえが、おれにちょいちょい小遣いをくれる親切な爺さんだよ。顔じゅう白いひげを生やして、眼のギョロッとした、痩せっぽちの小さな爺さんだよ」

「ウン、それなら間違いない。で、その人は芝浦でおれの行くのを待っているのかい」

「そうよ。鉄管長屋で待っているんだ」

「鉄管長屋って?」

「お前、知らねえのかい。