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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「おい、どこにいるんだ」
小さな声で呼んでみても、自分の声が鉄管にこだまするばかりで、返事がない。難儀なことには、ルンペンの名前を聞いておくのを忘れた。呼ぼうにも呼びようがないのだ。さすがの名探偵も、鉄管長屋というものが、これほど奇妙な場所だとは知らなかった。
耳をすますと、どっか遠くの方から鼾の声が聞こえてくる。無人の境ではない。人間がいることはいるのだ。しかしもう方角がわからなくなってしまった。鉄管は必ずしも並行に列んでいるわけではないので、幾つも幾つもくぐり抜けているあいだには、迷路の中に迷い込んだのも同然になる。
そのうち、鉄管の口と口とのあいだに、少し広い隙間のある場所へ出たので、明智はそこの地面に立って、ニュッと鉄管の上に頭を出してみた。すると、驚いたことには、四方八方鉄管の海である。暗さは暗し、どの方角へ進んだら一ばん早くそとの地面へ出られるかも、ほとんど見当がつかない有様だ。
ともかくも、でたらめに見当をつけて、又ゴソゴソと這い出したが、しばらく行くと、なんとなく周囲がざわめき出したような感じがした。方々でボソボソと話し合う声が聞こえる。