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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

変装と知りながら、それを真実の殺人鬼恩田として、正義心の強いルンペンどもの前に投げ与えるとは、なんという皮肉な報復手段であろう。明智は敵を翻弄している気で、実は敵のために翻弄されたのではないか。いかにも怪老人の考えつきそうな「魔術」ではなかったか。

いや、待てよ。どうもまだ腑に落ちないところがある。いったい、会いもしない老人が、どうして明智の変装を看破することができたのであろう。それでは、あの低能児みたいなルンペンが曲者かしら……そんなはずはない。あれだけのあいだ、自動車に肩を並べていて、それを見破り得ないほど愚かな明智ではない。

暗闇の広っぱを横ぎりながら、あれかこれかと思いめぐらすうちに、やがて、ある恐ろしい考えが、火花のように明智の頭に閃めいた。

「アッ、そうだったのか」

明智は思わず声を出して呟いたほど、激しいショックを受けた。

「すると、すると……ああ、おれはとんでもないことをした。だが、なんという悪魔の智恵だ」

さすがの名探偵も、ある恐ろしい幻影に戦慄しないではいられなかった。

「もう間に合わぬかもしれない。だが、間に合わぬにもせよ、手を尽すだけは尽してみなければ」