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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

黒い糸

そのドス黒い舌の表面に、まるで針の山のようなするどい突起物が、一面に生え茂って、それが舌の運動につれて、風にざわめく葦に似て、サーッサーッとなびくのを。

黒い糸

薄暗い廊下の隅に棺桶みたいな大きな木箱が置いてある。明智が恩田を欺くために買い入れた例の等身大の人形の箱だ。その中に、今は人形ではなくて、麻酔剤に正気を失った美しい文代さんが、横たわっている。

人間豹は、木箱の蓋をその上からソロソロとかぶせながら、舌なめずりをして、独りごとのように呟くのだ。

「ウフフ……そうしていると、君はまるで人形そっくりだね。美しい人形め。ちっとばかり窮屈だが、しばらく我慢するんだぜ。今にね、おれのうちへ行ったら、お姫さまみたいに大事にしてあげるからね。ウフフフフ」

そして、パタンと蓋をすると、箱のそばに散らかっていた縄を集めて、蓋の上からグルグルと巻きつけた。あとは表の暗闇に待っている二人の手下を呼び入れて、人形箱を担ぎ出すばかりだ。

恩田はその手下のものに合図をするため、玄関の方へ歩き出して、二、三歩も行かぬうちにハッと立ち止まった。空き家のような家じゅうに響きわたるけたたましい電話のベルだ。