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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
箱の中の恋人に会いたくなったのだ。彼は人形箱の縄を解いてしまった。蓋をあけて中を覗きこんでいる。長いあいだ覗きこんでいる。
おや、何をしようというのだ。人間豹は箱の中から気を失っている文代さんを抱き起こしたばかりではない。文代さんを小脇に抱えてスックとばかり立ち上がった。矢のように走る車の上にたちはだかった人間豹の精悍な黒い影と、その腰のあたりにグッタリとぶら下がっている文代さんの白い姿が、明暗二色に浮かび上がった。
するとたちまち、実に恐ろしいことが起こった。猛獣がその野性を暴露したのか。それとも彼は気が違ってしまったのであろうか、文代さんの首が飴ででもあるようにスーッと伸びたかと感じられた。
かつての夜、猛犬の上顎と下顎に手をかけて、二つに引き裂いたばか力が、今、彼女の首を引きちぎったのだ。
奇怪な幻か悪夢のような光景であった。ハッと見る間に、白い流星が闇の空に弧を描いて飛んだ。恩田は引きちぎった首を、悪魔の国の鞠投げのように、いきなり車の外へほうり出したのだ。
野獣は口から泡を吹いて怒り狂っていた。物凄い唸り声さえも聞こえてきた。彼は餌食をズタズタにしないではおかぬのだ。