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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

門には赤錆びた鉄板の扉が、さも厳重に閉まって、覗いてみるような隙間もなく、広い邸内はヒッソリと静まり返って、人のけはいもなかった。

神谷は、煉瓦塀のまわりを一巡してみるつもりで、ジメジメした落葉を、気味わるく踏みながら歩き出したが、ちょうど建物の裏手まで来た時、突然、妙な物音を耳にして、ギョッと立ちどまった。

それは物音というよりは、物の声であった。だが、人間のではない。人間があんなに恐ろしい唸り声を立てるはずがない。動物だ。犬なんかよりはずっと兇暴な猛獣の唸り声に違いない。この陰気な屋敷には、けだものが飼ってあるのだろうか。

ドキドキする胸を、じっと抑えるようにして、耳をすまして立ちどまっていると、しばらくして、またそれが聞こえた。「ウォーッ」という猛獣の唸り声だ。

と同時に、何かしら、煉瓦塀の内側から、つぶてのように彼の足元に飛んできたものがあった。彼はハッと顔色を変えて、いきなり逃げ出しそうにしたが、よく見ると、別に危険なものではない。投げ出されたのは、丸めたハンカチらしいものだ。

立ち戻って、足で蹴返してみると、ハンカチの中から、コロコロと一箇の指環がころがり出した。