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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
人間豹の方はともかくとして、本物の豹だけは、見かけによらず臆病な床屋さんの幻覚であったに違いない。警官たちをはじめ、この噂を聞き知った人々は、そんなふうに考えていた。
ところが、その翌日になると、その幻の豹が、なんと正真正銘の猛獣に違いなかったことが判明した。その朝浅草名物「花やしき」の支配人が青くなって警察署に出頭した。そして、同園秘蔵の牝豹がゆうべのうちに檻の中から姿を消してしまったと申し出でた。それも決して動物自身が檻を破ったわけではなくて、何物かが合鍵を手に入れて、檻の扉をひらいた形跡があるというのだ。
檻をひらいた曲者というのは、例の白髪白髯の老人、つまり「人間豹」恩田の父親に違いない。だが、一体全体なんの目的で、そんなむちゃなことをしたのであろう。ただわけもなく猛獣を巷に放して、市民を恐怖せしめて快哉を叫ぶためであろうか。それとも、もっと別の深いわけがあったのではなかろうか。まさか「人間豹」がお友だちを欲しがったというような、ばかばかしい動機からではないであろう。
虎男
「人間豹」だけでも充分な上に、今度は本物の猛獣までが野放しになっているとわかっては、浅草人種の恐慌は察するにあまりがあった。