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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
この二人の変装者は、野次馬の流れにまじって歩いてはいたけれど、むろん野次馬ではない。殺人魔捜索の使命を帯びていたのだ。それに加うるに、かさなる個人的怨恨がある。明智としては、死力を尽しても魔人「人間豹」の行方を突きとめないではいられぬ立場であった。
ハンチングの下から、頬被りの下から、二人の眼は寸時も休まず働いていた。両側の家並は一軒一軒、道行く人々は一人余さず、するどい探偵的凝視を受けた。二人はジャングルの中に猛獣の匂いを追う精悍な猟犬であった。どんな些細な一物も彼らの眼をのがれることはできなかった。
六区の映画街の中ほどに、コンクリートの大映画館に挟まれた、谷底のように薄暗くて狭い抜け道がある。どんな雑沓の日でも、この陰気な抜け道を利用する者はごく稀であった。薄気味わるいほど静かな谷底だ。ただ、その中途に地底のカフェがあって、そこへの客が時たま通るのと、細道にあいている映画館の裏口から係員が出たりはいったりするほかは、ほとんど人通りがないといってもよいほどであった。
職工と「よいとまけ」の明智夫妻は、なにげなくその抜け道へはいって行った。別に意味があったわけではない。