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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

彼は現場付近を走りまわって、何かの手掛りを掴もうと力めたが、見込みがないと悟ると、最寄りの商店の電話を借りて、事の次第をK警察署の捜査本部に急報した。ちょうど警視庁の恒川警部も来合わせていたので、充分手配を依頼することができた。

それから少し落ちついた気持になって、彼は例の六区の交番にも立ち寄ったが、運のわるいことには、「人間豹」と応対した美男のおまわりさんは、ちょうど少し前に別の人と交替していて、テンカン女の事を聞き知るすべもなかった。もし明智があの奇妙な出来事を耳にしたならば、たちまち何事かを悟り、正確な捜査方針を立てることもできたのであろうが、ほんの一分か二分の喰い違いのために、思いもよらぬ結果を惹き起こすこととなった。

文代さん捜索のことは、すでに恒川警部が手配してくれているのだけれど、明智ともあろうものが、愛妻の事件をお上まかせにしておくはずはなかった。彼は映画街を中心に、或いは表通り裏通りと、足にまかせて歩きまわった。それがもう日頃の冷静を失っている証拠でもあった。彼は元来「足の探偵」ではなかったのだから。

それからしばらくして、彼はとある裏通りの八百屋の店の前に、なにげなくたたずんでいた。