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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

に頼まれた無頼漢に違いない。

「気がついたかい」

男は明智の顔を見おろして、ニヤニヤ笑いながら言った。

「フフン、探偵さん命拾いをしたね。じゃあ、まあ、おやすみ」

彼は無慈悲にそんな事をいって、パチンと電燈を消した。

やがて夜が明けて、雨戸の隙間から明るい光がさしはじめた。部屋の中が夕暮ほどの明るさになった。それからまた長い時間がたって行った。見張りの男は夜が明けてからも二、三度上がってきたが、ジロジロと二人の監禁者を眺めるだけで、無言のまま降りて行った。彼の右手には思わせぶりなピストルが、スワと言えばぶっ放すぞと、威嚇するように光っていた。

先にもしるした通り、その空き家は浅草公園に接してはいるものの、不思議と淋しい場所にあった。うしろは煉瓦塀を隔てて動物園だし、両隣は人も住めないほど荒れ果てた小屋同然の建物だし、前の往来も、片側は大きな料理屋の裏手になっていて、遊覧客の通るような道ではない。少しくらい大きな声を立てたとて、雨戸とガラス戸を越えて、うまく通りがかりの人の耳にはいるかどうかも疑わしい。しかも監禁者は二人とも厳重な猿ぐつわをはめられている。