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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

そこをはいると、いつもの見物席のほかに、曲馬の馬場の中まで一面に蓆を敷いた臨時見物席、見渡す限り頭、頭、頭、ギッシリのお客さんだ。それが、シーンと鳴りを静めて、やがてはじまろうとする異常の見世物に、期待の胸をときめかせている。

正面の一段高い舞台には、古びたビロードのドンチョウが、そのうしろにいるに違いない激情的な生きものを隠して、なにげなく下がっていた。赤茶けた色のドンチョウには、金モールでZという巨大な文字が浮き出している。

「ゴーン、ゴーン、ゴーン……」

突如として耳を聾するドラの響き。

一としきり、稲穂の波打つような客席のざわめき。あちこちに起こる咳払いの音。やがてそれもピッタリと静まって、水をうったような広いテントの下。

スルスルとドンチョウが上がった。

舞台中央に立った一人の異様な人物、金モールの飾りいかめしい赤ビロードの上衣、ズボン、同じくピカピカ光るビロード帽子、スペインの闘牛士そのままの扮装である。しかもその人物の顔のまん中には、これはこれはと驚くばかり立派やかな、ピンと耳のそとまではねかえった、まっ黒な将軍ひげが、物を言うたびごとに、ピョコピョコと動いていた。