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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「猛獣は泣き叫ぶのです。狂乱して逃げまどうのです。ああ、まるで、それは人間のように、か弱い美しい女のように、助けを求めて泣きわめくのです。皆さんの前にどんな美しくむごたらしい光景が展開いたしますことやら。凄絶、惨絶、奇絶、怪絶、おそらくは観客諸君の夢にも想像されぬところでござりましょう」

何かそんなふうな意味のとれない奇怪至極の文句があったのを思い出した。あれだ。あれはつまりこの事を意味していたのだ。すると、熊の皮が剥がれたのも、中から美人が飛び出したのも、すべてあらかじめ計画されていたことに違いない。「喰うか喰われるか」などと、こけおどしの広告をして、その実は、こういう艶めかしいお茶番を見せるのが、この呼び物の思いつきであったのかもしれない。

だが、この半人半獣に扮している女猛獣使いは、なんてすばらしい女優であろう。あの真に迫った恐怖の表情はどうだ。あのソプラノの泣き声の美しさはどうだ。

見物はもう夢中であった。ものを言うこともできなかった。手を叩くことさえ忘れていた。生唾を呑み込み呑み込み、眼をみはって、口をあけて、名女優の命がけの演技に見とれていた。