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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
テントのすぐ下には、荒縄でくくった丸太棒が縦横無尽に交錯していた。その丸太棒の一本に、ポッツリと雀のようにとまっている人の姿があった。そいつが、舞台の惨劇を見おろして、さもおかしくて堪らないというふうに、ゲラゲラと笑っているのだ。その男の顔立ちは、遠くてはっきりしなかったけれど、見物たちは、彼のつぶらな両眼がまるでけだもののように、青く燃え立っているのを見のがさなかった。燐のように光る眼だ。とうとう、あいつが姿を現わしたのだ。
群集はそれを見ると、一そう気違いじみた昏迷におちいらないではいられなかった。気の弱い人々は、一目散にテントのそとへ逃げ出したい衝動を感じた。
舞台の檻の中では、美しい半人半獣が、今は気力も尽きはてて、グッタリと倒れたまま動かなかった。気を失ったのであろう。虎の鼻面がすぐ眼の前に迫っても、声も立てなければ、身動きさえもしなかった。その白蝋のように美しい肌の上に、一条の血汐が、赤い蛇となってからみついていた。
檻の横手にたたずむ猛獣団長の顔はドス黒く昂奮して、その偉大なる将軍ひげは激情にうち震え、つぶらな両眼はまっかに充血していた。