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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「アッ、風船だ。風船へ逃げた」

誰かのどなり声に、人々は又一斉に空を見上げた。すると、これはどうだ。逃げる場所もあろうに、「人間豹」はアド・バルーンの綱にすがりついて、屋根のそとの空中にぶら下がっていたのである。

広告風船は、風にゆらめきながら、銀色の巨体を、遥かの空に浮かべていた。風船の下には「猛獣大格闘……Z曲馬団」の紅文字が、ヒラヒラとひらめいて、そこからスーッと流れた一条の綱が、ちょうど明智たちの立っている広場の片隅、風船昇降用のロクロまでつづいていた。

「ロクロを捲け、ロクロを捲け」

人々は叫びながら、ロクロに駈け寄って、三人四人五人と力を合わせ、ヨイトマケ、ヨイトマケ、広告風船の綱を捲きとりはじめた。

あわれ稀代の殺人魔「人間豹」も、もはやのがれるすべはなかった。ロクロの廻転につれて風船の綱はみるみる縮まって行く。そして結局風船が地上におろされたとき、「人間豹」も逮捕の運命をまぬがれることはできないのだ。この大捕物の大団円も、もはや五分、三分の後に迫っていた。

だが、綱につかまった「人間豹」は、諦めわるく上へ上へと昇って行く。ロクロが一尺捲きとれば、彼も一尺昇るのだ。