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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
そして、巨大な風船が、テントの屋根とすれすれまで引きおろされた時にも、黒豹は依然として元の空中にただよっていた。すでに「Z曲馬団」の四文字を昇りつくし「大格闘」の大の字のあたりにしがみついていた。
「オーイ、むだな骨折りをさせるな、早く降りてこい」
地上の警官たちが業をにやして、空中の犯人に呼びかけた。
「ワハハハハハ、諸君、君たちこそむだ骨折りはよしたまえ」
空中からの応答が、風に吹き飛ばされながら、かすかに聞こえてきた。
「ああ、明智君、恒川君もそこにいるんだね。ご苦労さま。だが、君たちは又むだ骨折りをするばかりだぜ」
「人間豹」は赤い「大」の字の前にぶら下がって、傍若無人の憎まれ口を叩いた。
「馬鹿野郎、文句はあとでゆっくり聞いてやる。早く降りてこおい。往生ぎわがわるいぞう」
警官が負けずに応酬した。
「アハハハハハ、君たちおれをつかまえた気でいるのかい。ハハハハハ、こいつはお笑い草だ。なぜといってね、おれは決してつかまらないからな」
叫ぶかと思うと、空中の恩田の右手にキラリと光るものがあった。大型ナイフだ。そのナイフが彼の腰のあたりの綱の上を烈しく左右に動くよと見る間に、たちまち綱はプッツリと切断された。