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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
そして、極度の激情の際にもかかわらず、彼女はその掛金が何を意味するかを理解したのだ。
弘子はヒョイと振り返って、またもや飛びかかろうと身構えている恩田を睨みつけた。まっ赤に血走った眼、大きくふくれ上がった小鼻、鮒のようにひらいた唇、青ざめきって藍色に死相をたたえた顔、その顔で彼女はニヤニヤと笑ったのだ。
神谷は、とっさにその笑いの意味を悟って、思わず眼をつむった。ああ、とうとう最後の時が来たのだ。何もかもおしまいになる時がきたのだ。
ガチャンと異様な音が聞こえてきた。
神谷はその物音に、ゾッと身震いしたが、見まいとしても見ぬわけにはいかぬ。再び眼をひらくと、すでに檻の扉はひらかれていた。弘子が掛金をはずしたのだ。
豹はと見れば、もう檻の中には影もない。そして、一方の土間に、からみ合った黄色と黒との一とかたまり、豹は一と飛びに飼主恩田に飛びかかって行ったのだ。
「ワーッ」という、悲痛な叫び声が、怪人恩田の口からほとばしった。さすがの彼も、この不意うちには、極度の驚愕にうたれた。だが、彼もまた人間の形をした野獣である。本物の豹に縮み上がりはしなかった。