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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
そして、徐々に徐々にその声が高まり、しまいには、彼は身もだえをして、小児のように泣きわめくのであった。
いつの間にか夕闇があたりをこめ、たださえ暗い密室は文目もわかぬ闇となっていた。その暗黒に包まれたまま、彼の泣き声はいつまでもつづいていた。
ふと気がつくと、誰かしら彼を声高く呼んでいるものがあった。その上に、暗闇とのみ思っていた密室に、どこからか、一条の赤い光が射している。彼は反射的にハッと身構えをしながら、声のする方を振り向いた。
「おいおい、君は何を泣いているんじゃ。何がそんなに悲しいのじゃ」
声と共に、その声の主の眼と鼻とが、四角にくぎられて宙に浮いているのが見えた。
恩田の父親だ。入口の板戸に、小さな四角の覗き穴がこしらえてあって、彼は今その蓋をひらいて、ロウソクをかざしながら、密室の中を覗きこんでいるのだ。神谷は、じっと老人の顔を見返しながら、ひとことも物を言わなかった。何を言っていいのかわからなかった。口をきけば、みじめな震え声になりそうだった。そして、何かしら抑えつけるように、生命の不安が感じられて仕方がなかった。
「おや、君のその顔はどうしたのだ」