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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「いけませんか。いけませんか」
男はせき込んで尋ねる。
「ええ、困りますね」
「ああ、僕を救ってください。僕は自制力を失いそうです。もし自制力を失ったら……」
彼は歯を気味わるく鳴らしながら、何を思ったのか、拳骨を作っていきなりテーブルをなぐりつけた。幾度も幾度もなぐりつけているうちに、指の関節が破れて、血が流れはじめた。そのテーブルにしたたった血の上を、無残にもさらになぐりつづける。
彼は彼自身の心と戦っているのだ。歯を食いしばったり、指を傷つけたりして、何かしら兇暴な衝動を抑えつけようとしているのだ。だが、それにもかかわらず、ともすれば、こみ上げてくるけだもののような怒りが、彼の全身をワナワナと震わせ、両手の五本の指が何かに掴みかかるように、醜くキューッと曲がってくるのだ。そして、眼は一そう青く燃えたち、歯はガチガチと鳴る。
神谷はそれを見ていると、我慢にも虚勢が張っていられなくなった。酔いもさめきって、心の底まで冷えわたるような、なんともえたいの知れぬ恐怖に、震えあがった。
「弘ちゃん、ちょっとここへ」
思わず知らず呼んでしまった。
「なによ」
すぐうしろで、弘子の声が答えて、彼女は、やけな調子で、ボックスへのめり込むと、男の隣へ腰かけた。