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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「あら、まだお面かぶっていらっしゃるの。お座敷の中でおかしいわ。取ったげましょうか」
「まあ、いいから、手をお出し、指環の方を先にしよう」
男の薄黒い毛むくじゃらの手が、ニュッと伸びて、蘭子の左手を掴み、指環をはめようとした。その手を一と眼見ると、彼女はギョッとして、思わず中腰になった。
「いけない。放してください。あなた誰です……神谷さんじゃない……早く、早く、そのお面を取って、顔を見せてください」
「ハハハハハ、そんなにせき立てなくたって、いま見せてあげるよ。ほら、君とエンゲージした男っていうのは、つまり僕なのさ」
片手では、もう指環をはめてしまった蘭子の手をグッと握ったまま、一方の手で、「レビュー仮面」をむしり取った。その下から現われたのは、蘭子には初対面であったけれど、まぎれもない人間豹、恩田の痩せた黒い顔であった。
「ハハハハハ、ずいぶん苦労をしたもんだよ。神谷君とそっくりの服を注文したり、髪をオール・バックにしたり、声を作ったりさ。だが、君がエンゲージ・リングを受けてくれたので、僕はやっと安心したよ。まさか君は、その指環を返そうとはいうまいね」