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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

劇場では、この人気女優の身辺を気遣って、屈強の男を護衛として、出勤の送り迎えをさせることになった。神谷も毎日会社を早引けにして、蘭子の楽屋部屋に入りびたり、注意をおこたらなかった。

それにしても、なんという呪わしい廻り合わせであったろう。神谷と恩田は、異性に対する嗜好が、符節を合わすように、ピッタリと一致していたのだ。でなくて、先には弘子を、今また蘭子を、申し合わせでもしたように、同時に恋するということがあるだろうか。

いやいや、そうではないかもしれない。恩田父子が神谷を仇敵と狙っているのは、疑ってみるまでもないことだ。すると、今度の蘭子の場合は、ただ偶然の嗜好の一致だけでなくて、神谷の熱愛するものを奪い取り、責めさいなんで、それを彼に見せびらかし、限りない苦悩を与えて、ひそかに快哉を叫ぼうという下心ではあるまいか。

思いめぐらせば、めぐらすほど、人間獣の奥底知れぬ執念に、神谷は心も凍る恐怖を感じないではいられなかった。

今にも、今にも、あいつは必ず再挙を企てるに違いない。蘭子から眼を放してはいけない。

命をかけても恋人を守らなくてはならぬ。願わぬことながら。