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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
いや、そうではない。せり出しの板が落ちるなんてことが、起こりそうな道理がない。きっと誰かがいたずらをしたのだ。あらかじめせり出しの台がはずれるように細工をしておいて、彼女がなにげなくそこへのるのを待ち構え、ロクロを逆に廻して、エレベーターをおろすように、突然、彼女のからだを舞台から消してしまったのだ。
では、そんなつまらないいたずらをしたのは、いったい誰であろう。
蘭子はとっさにそれと悟って、宙吊りになった四角な板の上に倒れたまま、ひょいと顔を上げて薄暗がりの奈落の中を透かして見ると、案の定、そこにうごめく三人の人影があった。
せり出しの板がおりきってしまったとき、そのうちの一人が、幽霊のように彼女の身辺に近づいてきた。ああ、あいつだ。闇にも光る二つの燐光。けだもののような息遣い。恩田だ、人間豹だ。彼は厳重な警戒のために、蘭子の身辺に近づく隙がないものだから、こんな突飛な誘拐手段を考えついたのだ。そして、彼の右手にハンカチを丸めたような白いものが握られている様子では、彼は蘭子を麻酔させた上、意識を失った彼女をかついで、この奈落を逃げ出すつもりに違いない。