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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「ああ、君、君は弘ちゃんていうの?」
男の相好が、実に突然に、ガラリと変ってしまった。彼は弘子の肩を抱いて、ニヤニヤしながら、お詫びでもするように話しかけるのだ。
「僕ね、恩田っていうんだ。君に、贈り物がしたいのだがね、うけてくれるかい」
彼は前に見はっている神谷の方を、気まずそうに盗み見ながら、大きな口をペタペタいわせてささやいた。そうだ、この恩田という怪人物の口は、実に大きかった。もし思い切ってひらいたら、耳まで裂けて、あの骨ばった顔じゅうが、口になってしまうのではないかと疑われた。唇はそんなに厚ぼったくなかったが、非常に赤くて、絶えずヌメヌメと濡れているように見えた。
恩田は自分の指から奇妙な形の指環を抜きとり、辞退する弘子の手を無理にとって、その指にはめてしまった。
「美しい弘ちゃんにはじめて会った記念です。大切にしてください」
彼は指環をはめたついでに、弘子の手をギュッと握りしめながら、実に独りよがりなわがままな調子で言うのだ。
神谷はムッとしたが、恩田のさいぜんの形相を思い出すと、恐ろしくて手出しができなかった。狂人の痴態として見のがすほかはなかった。