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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
それにしても、彼はいつの間に猛虎の姿になったのだろう。今までは、虎が人間に化けていたのかしら。
「だまっているね。おれの名を口に出すのが、君は怖いのかね。それじゃ名乗ってやろう。おれは恩田だよ。君の愛人を奪おうとした恩田だよ」
そこまで聞くと、神谷は、すべてを了解することができた。こいつは芝居に使う虎の縫いぐるみをかぶっているのだ。そういう変装をして捜索の眼をのがれ、劇場を抜け出してきたのに違いない。
「き、貴様、蘭子を、どこへ隠したのだ」
神谷は精一杯の気力をふるい起こしてきめつけた。
「隠しやしない。蘭子は、もうちゃんと自宅へ帰っているよ。どっさり護衛がついてね。君はその後の出来事をまだ聞いていないとみえるね。おれはしくじったのだよ。とうとう隠れ場所を発見されてね。蘭子を取り戻されてしまったのだよ。ハハハハハ。だが、なんでもないんだ。ちょっと失敗したというまでのことさ」
「それはほんとうか」
「ほんとうとも。ほんとうだからこそ、ちょっと君に警告するために、やってきたんだよ。なに、じき帰るから心配しないでもいい。ここで君を掴み殺すのはわけはないがね。それじゃ、あんまり惜しい気がするのだよ。