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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
一
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伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。
部屋の中央に長方形の大テーブルがあった。シャンデリヤの明りが、そのテーブルの上に散らかっている書類――タイプライタアの紫インクがぼやけた乱暴な厚い綴込、隅を止めたピンがキラキラ光る何かの覚え書――の雑然とした堆積と、それらを挾んで相対し熱心に読み合せをしている二人の男とをくっきり照して、鼠色の絨毯の上へ落ちている。
部屋じゅうを輝かす灯が単調であるとおり、二人の男の仕事も単調でつまらなかった。ホームスパンの服を着た、浅黒い瘠せた男が左手に綴込を持ち、眼をくばり、頁をめくり、どんどん桁の多い数字を読みあげて行く。向い合って、伸子の父の佐々が椅子に浅くかけ、青鉛筆を持って油断なく数字をチェックしていた。彼は品のよい縞の変り襟のついたスモーキング・ジャケットを着けていた。くつろいだなりにも似合わず、彼はもう三十分以上その忙しい、機械的な仕事に没頭しているのであった。
傍観している伸子には、仕事の内容も、今それをしなければならない必要も解っていなかった。彼女がおとなしく窓際にしりぞいて眺めているのは、主として、子供のうちから父の多忙な時決して邪魔はできないものと観念している習慣によるのであった。